入社して間もない頃、まだ右も左も分からない私に、Oさんは何かと親切にしてくれました。
「ここはみんな優しいから大丈夫だよ」
「困ったことがあったら、何でも聞いて」
そう言ってもらえるだけで、当時の私は心強く感じていました。
けれど、入社して数日後、Oさんは急に口調を変えて、こう言いました。
「隣の部署のパートさん、あの人には気をつけた方がいいよ。私、昔すごく嫌なことされたから」
「絶対に関わらない方がいい。あなたのために言ってるの」
私はその言葉を、悪意なく受け止めてしまいました。
田舎育ちで、人の善意を疑うことがなかった私は、「この人は私のためを思って忠告してくれている」と信じ込み、挨拶程度の関係しか築かないようにしてしまったのです。
けれど、時間が経つにつれて、ふと違和感を覚えるようになりました。
その“パートさん”は、何度かすれ違ったときに、笑顔で挨拶をしてくれました。
返してくれる言葉もやさしく、冷たい態度など一切ありません。
そのうち、偶然一緒になった給湯室で少しだけ言葉を交わした時に、私は確信しました。
「あの人、本当に悪い人じゃない。むしろ、すごく気を遣ってくれてる…」
そして後に知ることになるのですが――
Oさんは、自分が仲間はずれにされないように、先手を打って人を遠ざけていたのです。
特に、新しく入ってきた私を“味方”にしておきたかったのだと。
私はただ、親切にしてくれる人を信じたかっただけ。
でも、それがすでに「コントロールされていた」ということに気づいたとき、胸がざわざわしました。
その後、少しずつパートさんと会話する機会が増え、Oさんが言っていた内容と現実がまるで違うことを実感していきました。
今ではお互い違う会社に勤めていますが、2ヶ月に一度飲みに行くほどの関係です。
彼女は、私にとって“会社で出会えた数少ない味方”の一人になりました。
人を信じることは大切だけど、信じすぎてはいけない。
自分の目と心で、ちゃんと確かめなきゃいけない。
あの時、Oさんの言葉をうのみにして、心のドアを閉ざしてしまったこと。
そして、疑うことを“悪いこと”だと思い込んでいた自分の純粋さが、今では少しだけ悔しいです。
けれど、これもまた、私の経験。
これから少しずつ、あの職場での日々を振り返っていこうと思います。
(第4回につづく)


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