――そう思ったのは、あの「支店合併」の話が出た日だった。
当時、私はOさんと微妙な関係を続けていた。表面上は同じ空間で働いていたけれど、心の中では常にピリついた空気を感じていた。そんなある日、本部長から衝撃的な通達が出された。
「県内の3支店を統合して、1つの大きな支店にまとめる」
私のいる支店は吸収される側だった。建物は売却され、社員は統合先へ異動。つまり私は、これまで片道15分で通えていた職場から、片道1時間半もかかる場所に通うことになる。
今までの支店はOさんと私、2人だけの女性事務だったけど、統合先には女性が6人。Oさんとの関係に悩んできた私にとって、その変化は希望でもあり、不安でもあった。
家事も育児も、すべて平日はワンオペだった。
朝は早く起きてお弁当を作り、子どもたちを送り出し、自分も支度して出勤。
そんな生活の中で「往復3時間の通勤」なんて、どう考えても無理だった。
でも、家族は私の背中を押した。
「しがみついてでも、続けた方がいい」と。
辞めたい気持ちは正直あった。
けれど、子どもの教育費、生活の安定、そして何より――
「Oさん以外の人と働けるかもしれない」という希望が、私を踏みとどまらせた。
そして、私は決意した。
ここから約1年半、朝3時半起きで、往復3時間の通勤を続ける日々が始まった。
それは、自分の限界を試すような毎日だった。
でも、あのとき踏みとどまったからこそ、見えてきた世界もあった。
――つづく。
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