支店長に話を聞いてもらったあの日から、すべてが劇的に変わった――…
そんなことは、正直まったくなかった。
Oさんとの関係が急に良くなるわけでもなかったし、仕事の量が減ったわけでもない。
でも、“私の味方がいる”と初めて感じることができた。その事実が、私の心を少しずつほぐしてくれた。
実際、支店の男性社員たちの何人かは、Oさんの裏の顔にすでに気づいていたらしい。
「いつも人によって態度が違うよな」「あの言い方はちょっとキツすぎるよ」
そんな言葉を、ぽつぽつと聞くようになった。
私だけじゃなかった。
Oさんに嫌な思いをさせられていたのは、他にもいたんだ――そう思えたのが、どれほど心強かったか。
Oさんはよく言っていた。
「この支店の人たちはみんな私のことが好き」「私はここで信頼されている」って。
でも、それはOさん自身の“願望”であって、現実じゃなかった。
その嘘にずっと私は巻き込まれていたんだと思う。
他にも、Oさんは色んな嘘を重ねていた。
「あなたのこと、私は応援してるから」
「上の人に言っておいたよ。ちゃんと評価されるようにって」
でも蓋を開けてみれば、そんな事実はなかった。
その言葉たちは、私を操るためのものだったんだと、ようやく気づけた。
ずっと、催眠にかけられていたようなものだった。
でも少しずつ、その呪縛が解けていった。
周りの人と、自然と話せるようになった。
Oさんの話をうのみにしなくなって、実際に人と関わることで、Oさんの嘘がどんどん浮かび上がってきた。
ヤクルトを配達していた頃、Oさんは遠くから見ると明るくて、社交的で、魅力的に見えた。
でも近づいてみたら、その裏にある汚さや、ズルさや、支配欲がはっきりと見えた。
本当の人間性って、時間が経たないと見えないんだなと思う。
私は今でも、あの頃のことを思い出すと、苦しくなる。
でも同時に、あの時支店長に話す決心をした自分を、心から誇りに思っている。
あの日、あの一歩があったから、私は少しずつ変われた。
そして何より、自分の感覚を信じるようになった。
「おかしいと思ったら、それはちゃんと“おかしい”んだ」
そんな当たり前のことを、取り戻すまでに、私は少し時間がかかった。
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